
このページでは問い合わせがきてから、見積書や契約書や工事説明書はどのように作っていくかをお伝えします。
私が最初に作った見積書はそれはそれは質素なものでした。
塗料名を載せていない。項目も少ない。説明なんて、ほとんどない。インターネットで他社の見積書を探して、なんとか形にはした。正直、恥ずかしいものでした。
それでも、お客様には渡しました。
下請けのとき、書類なんてほとんど意識していませんでした。渡す相手は元請けの現場監督や営業マン。建築のプロです。塗装の用語も工程も、だいたいわかっています。わかりやすく書く必要も、丁寧に説明する必要も、正直あまりありませんでした。
お客様から直接仕事を受けると、相手がまったく変わります。
塗装のことを何も知らない方です。外壁の傷みがどこまで問題なのか、何を塗るのか、いくらかかるのか——全部、初めての話です。
だから、渡す書類の考え方も変わります。
この記事では、私が元請け工事で整えてきた見積書・工事説明書・契約書の話をお伝えします。完成したテンプレートをそのまま公開する話ではありません。なぜその書類が必要なのか、どう考えて作るのか、という話です。
なお、契約や必要書類については、工事内容や契約金額などによって適用されるルールが変わる場合があります。最新の公的情報を確認したうえで判断してください。
この記事でわかること
- 下請け仕事と元請け仕事で、書類の考え方がどう違うか
- 見積書に載せるべき基本情報
- 工事説明書が信頼につながる理由
- お客様との認識違いを防ぐ工夫
- 専門用語を減らす、または説明する考え方
- 契約書を整えるときの現実的な進め方
下請けの書類と、元請けの書類は別物です
いちばん大きく変わったのは、書類の相手です。
下請けのとき、渡す相手は建築のプロです。現場監督、営業マン、事務の方。塗装の用語も、工程も、だいたいわかっています。「理解しやすいように書く」という意識は、正直あまりありませんでした。
元請けになると、相手はお客様です。塗装のことを何も知らない方がほとんど。
ここで大事なのは、お客様と同じ目線に立つことです。
「伝え切る」
この4文字を、書類づくりの基準にしました。
なぜこの作業が必要なのか。どの塗料を使うのか。どこまで塗るのか。いくらかかるのか。いつ終わるのか。保証はどうなるのか。
こちらは毎日同じ仕事をしているので、「慣れ」が生じます。ペンキを塗る手順ならもう体が覚えています。でも、お客様は初めての方が多い。前回の塗装工事から10年以上経っている方も、珍しくありません。
塗装工事は、人生で何度も行うものではない。
だからこそ、こちらが当たり前だと思っていることほど、書いて、説明して、確認する必要があるのです。書類は、営業の道具というより、お客様への説明の道具です。
最初の見積書は、他社を見て直しました
最初の見積書が雑だったのは、わかっていました。問題は、どう直せばいいかわからなかったことです。
きっかけは、インターネットで他社の見積書を参考にしたことです。
「塗装 見積書」で検索して他社の見積書を参考にしました。
その会社ごとに見積書の特色があり、わかりやすいものもそうではないものもあります。いろいろな見積書を見ることで「この会社はきっと仕事が取れているだろうな」というのがなんとなくわかります。
それは「お客様目線になり、お客様に寄り添って作っている」とわかったからです。
そのような会社の見積書は塗料名が、メーカー名まで詳しく載っていました。項目も、作業ごとに細かく分かれています。「足場仮設工事」「高圧洗浄」「下地処理」「下塗り」「中塗り」「上塗り」
「あ、こういうことを書いているのか」
私は良いところを真似をしました。完璧にコピーしたわけではありません。でも、「何を載せているのか」が見えました。見積書は金額だけではなく工事の中身を、文字で残すものなのだと、そこで初めて理解できました。
今では、次の5つは絶対に外しません。
塗料名・メーカー名、作業範囲の明記、保証内容、工期、支払い条件。
これが揃っていない見積書は、お客様に渡す資格がないと思っています。
塗料名がなければ、「何を塗すのか」がわからない。作業範囲がなければ、「どこまでやるのか」がわからない。保証がなければ、工事後に何をしてもらえるのか不安になる。工期がなければ、いつまで足場がかかるのか見えない。支払い条件がなければ、いついくら払うのかが曖昧になる。
どれも、こちらにとっては当たり前のこと。でも、お客様にとっては、全部が初めての情報です。
見積書だけでは、お客様はイメージできません

見積書は、文字と数字だけです。
「足場仮設工事 120,000円」
この一行を見て、お客様に何が起きるのか想像できるでしょうか。足場という言葉を知っていても、自分の家にどう設置されるのか、見たことがない人がほとんどです。
だから、工事説明書を作ります。
基本的には、見積書の項目を、より詳しく解説するものです。
見積書に「足場仮設工事」という項目があれば、工事説明書では足場の写真を載せます。どのように足場を設置するのか、イメージしやすくするためです。
「外壁塗装」の項目があれば、現在の傷んでいる写真を載せます。どのような手順で塗るのか、どの塗料を使うのか、その塗料はどれくらい耐久年数があるのか——写真と文章で伝えます。
見積書は、金額の根拠を示すもの。工事説明書は、その金額の中身を見せるものです。
料理にたとえるなら、見積書はメニューと値段の一覧。工事説明書は、厨房の様子と素材の写真が載った説明カードです。値段だけ見て「高い」「安い」と判断するのと、中身を見てから判断するのでは、受け取り方がまったく違います。
最初の頃は、1件分の工事説明書を作るのに30分から1時間かかっていました。今はテンプレート化も進んで、15分前後で作れるようになりました。件数を重ねるごとに、伝えるべきことがわかってくる。最初は時間がかかって当然です。
そして、工事説明書は使い回ししません。そのお宅のためだけに作ります。現地調査で撮った写真を入れるからです。一般論の説明書では、お客様の家の話にならない。
先に見積書を出すと、工事の話が聞いてもらえません
見積書と工事説明書、どちらを先に見せるか。
最初の頃は、本当に迷っていました。
色々経験した結果、今はこうしています。先に工事説明書で工事内容を詳しく解説してから、最後に見積書を見せる。
理由は、シンプルです。
最初に見積書を見せて金額を提示してしまうと、「高い!」と思った人は、工事説明書を見ようとしません。もう気持ちが引いている。逆に「安い!」「適正価格だな」と思ってもらえても、気持ちが先走って、工事説明書をあまりよく見てくれない。
どちらにしても、どんな工事をするのか、理解してもらえなくなる。
これは、「塗装工事の問い合わせが初めて来たら?職人が落ち着いて対応する方法」で書いたアンカリングの話とつながります。最初に見せた数字が、お客様の基準になる。金額が先に来ると、その後の説明は、すべてその数字の説明に聞こえてしまう。
工事説明書を先に見せれば、お客様は工事の中身を理解した状態で金額を見られる。「この内容なら、この金額か」と判断できる。
こうすることで、「この会社は丁寧だな」と思ってもらえる。工事中や工事後のトラブルも減る。お客様が「聞いていない」「知らなかった」と言う場面が、書類の段階で減るのです。
書いても、お客様は細かく読まない

認識違いは、今でもたまにあります。
たとえば、玄関ドアの塗装です。私は外側だけ塗装するという認識でした。お客様は、内側も塗装するという認識でいる。現場に入る前に気づかず、困ったことがあります。
「書いてあるのに、なぜ」——そう思いたくなります。でも、そこで責めても何も解決しません。
こういうことを防ぐために、見積書にはこう書くようにしています。
「玄関ドア塗装(外側を塗装。内側の塗装は含んでおりません)」
書面で残す。これは大事です。
ただし、正直に言います。お客様は、見積書を細かく読むことは、なかなかしません。
載せたから安心、では足りない。だから、口頭でも伝えます。商談のときに、「ドアは外側だけの塗装になります」と声に出して確認する。書面と口頭、両方です。
書類は、お客様があとから見返すためのものでもある。でも、契約の前に口頭で一度伝えておかないと、当日になって「聞いていない」という話になる。
認識違いを防ぐには、書類で残すことと、口頭で確認することの、両方が必要です。
雨樋や破風、シャッターなど、付帯部が含まれるかどうかも、同じです。「含む」「含まない」を、項目ごとに明記する。曖昧な一行で済ませない。ここが、後のトラブルのもとになります。
専門用語は、使うか使わないかを相手で決める
専門用語を、すべて避ける必要はありません。
お客様の中には、ケレンやコーキング、塗料名まで知っている方もいます。そういう方には、専門用語を使います。わかっている人に、わかりやすく言い換える必要はない。
一方で、何もわからないお客様もいます。その方には、説明を添えます。
ケレンという言葉を使うときは、「ケレンとは、劣化した塗料を剥がし、細かい傷をつけて塗料の密着をよくする作業のことを指します」と伝えます。
シーリングのときは、「シーリングとは、外壁と外壁の間にあるゴムのようなもので、雨の侵入を防ぐ役割があります」と伝えます。
専門用語を使うかどうかは、相手次第です。会話の途中で、お客様の反応を見て調整します。うなずいてくれるなら、そのまま進めます。首をかしげたら、言い換えます。
書類も同じです。見積書に専門用語を載せるなら、工事説明書で意味を補足する。用語だけ並べた見積書は、お客様にとって暗号です。
契約書は、ネットの雛形から始めました

初めての契約のとき、「契約書ってどうやって作るのだろう」と、本当にあたふたしました。
どうやって用意したかというと、ネット上にある雛形を参考にして作りました。「注文書」「請書」「約款」を用意しました。
今も、紙の契約書です。最初の頃は、お客様に住所や氏名などを手書きで書いてもらっていました。毎回その作業をすると大変なので、今はパソコンで書くようにしています。時間短縮になりました。
ここで、恥ずかしい失敗を話します。
本来、お客様に1枚だけサインをもらえばいいところを、4枚も書いてもらいました。注文書、請書、約款、その他——気を遣って丁寧にしようとした結果、お客様を疲れさせてしまった。
それでも、無事に仕事は完了しました。お客様は嫌な顔をしませんでした。でも、今振り返れば、無知すぎでした。
契約書は、堅苦しく整えればいいというものではありません。お客様が理解して、納得して、サインできる形がいいのです。必要な情報が揃っていれば、枚数は少ない方がよい場合もあります。
電子契約に切り替えるかどうかは、事業の規模やお客様の事情によって変わります。紙でも電子でも、大切なのは、契約内容が双方にとって明確であることです。導入を検討する場合は、最新の公的情報や専門家の意見も参考にしてください。
※ 建設業の許可、契約書面の交付義務、クーリングオフの適用などは、工事の種類や契約金額、お客様の属性によって異なる場合があります。断定せず、必要に応じて確認してください。
最初に取り組む一歩
元請けの書類づくりで、今日からできることをお伝えします。
まず、インターネットで他社の見積書を数件見てください。何を載せているか、項目の分け方、塗料名の書き方を観察するだけで、最初の一歩になります。
次に、自分の見積書に次の5つが載っているか確認してください。塗料名・メーカー名、作業範囲、保証内容、工期、支払い条件です。一つでも欠けていたら、足してください。
工事説明書は、見積書の項目を写真付きで解説するものだと考えてください。最初は30分かかっても構いません。15分で作れるようになるのは、何件も作ったあとです。
商談では、工事説明書を先に見せて、最後に見積書を出してください。金額が先に来ると、説明が聞いてもらえなくなります。
認識違いを防ぐために、範囲の「含む」「含まない」を明記し、口頭でも確認してください。書いただけでは、読まれないことがあります。
契約書は、ネットの雛形から始めて構いません。ただし、お客様に何枚もサインを求めすぎないこと。丁寧さと、煩わしさは、別のものです。
完璧な書類ができてから動く必要はありません。私の最初の見積書は、塗料名も載っていませんでした。それでも仕事は取れました。ただ、書類を直すたびに、トラブルは減り、信頼は増えました。
書類は、お客様への説明の残りです。伝え切る意識で作れば、営業が苦手な職人でも、十分に戦えます。
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